東基連会報‗編集後記【平成30年1月号】

今年の干支は戌。株式相場では「辰巳(たつみ)天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ、戌(いぬ)は笑い、亥(い)固まる、子(ね)は繁栄、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(う)跳ねる」などと言われているそうだが、はたしてどうなることか。それはともかく、戌といえば犬。我が家にも10歳になる犬がおり、傍らにいる妻への不満など、面と向かっては言い出しかねるようなことを愛犬にささやいては憂さを晴らす。夫婦二人の生活には欠くことのできない家族となっている。猟犬、警察犬、盲導犬、介助犬。人間と犬との歴史は長く、その特性を活かして様々な場面で私達を支えていてくれる。私たち夫婦にとっては、さしずめセラピードッグか。
(一財)国際セラピードッグ協会のホームページを見ると、犬種を問わないことや保護犬、特に殺処分寸前で保護され、訓練を受けてセラピードッグとなった例が多く紹介されている。人間関係が殺伐としてきているといわれて久しいが、介護施設や病院で高齢者や子供たちとふれあう犬たちを見ていると心が和む。職場の人間関係も悪化の一途をたどり、ハラスメントに係る相談はうなぎ登り。職場にも雰囲気を和ませるセラピードッグがいたらと思うが、叶わぬ夢か。
(初夢枕)

東基連会報‗編集後記【平成29年12月号】

今から40年近く前、まだ監督官として駆け出しの頃、秋の収穫を終えた農家の働き手が「出稼ぎ」に出て行く光景を、この頃になるとよく見かけました。第1次産業である農業から、第2次産業である製造業、建設業へと働きを変え、これが産業を支える調整弁になっていたのでしょう。そうした折、大手自動車メーカーが期間従業員の無契約期間を延長し、労働契約法に定める無期転換の適用を回避することができる雇用契約に改めたとの報道がありました(朝日新聞29.11.4)。加藤厚生労働大臣は記者会見で「都道府県労働局に実態把握をするように既に指示」「今回の無期転換ルールの趣旨を踏まえて適切に対応していくということが必要」と回答したとのこと。雇用の安定を期して改正された労働契約法第18条。そして今、国会提出には至っていないものの、非正規労働者の処遇改善を盛り込んだ働き方改革関連法案。その関連やポイントについては本紙「『働き方改革実行計画』を読み解く~開催される」にも記載したところです。非正規労働者の処遇改善に向けた政府の取組の本気度が試されると言っては言い過ぎでしょうか。流行語大賞2017候補30語の20位に「働き方改革」がノミネートされたとのこと。水町先生の熱い語り口を思うまでもなく、「働き方改革」を単に流行語で終わらせるにはいかないと思うのですが・・
(望遠鏡)

東基連会報‗編集後記【平成29年11月号】

秋の臨時国会で審議が予定されていた「働き方改革」は、開会冒頭での解散で先送りとなりました。一方、過重労働問題を国民的課題へと認識させる原動力となった電通事件は、社会的な影響を配慮して略式起訴から東京簡易裁判所での公判へと審理の場を移し、法人に対して罰金50万円の判決を言い渡し結審しました。裁判官は「業績との兼ね合いで働き方改革がきちんと遂行されるか疑問に思う方もいるだろう。日本、そして業界を代表する企業として立場に相応した社会的役割を果たしてもらいたい」と説諭したとのこと。新国立競技場建設に関わっていた建設会社の現場監督が失踪後自殺、新潟市民病院の研修医が過労自殺、NHK記者の過労死が発表されるなど、日本を代表する職場で起きたこうした事件は労働の現場で起きている事態の深刻さ、根深さを象徴しており、判示された説諭が重く響きます。「平成29年版 過労死等防止対策白書」では『労働時間を正確に把握すること』及び『残業手当を全額支給すること』が、「残業時間の減少」、「年休取得日数の増加」、「メンタ ルヘルスの状態の良好化」に資すると分析。方や、本紙で紹介した「平成28年就労条件総合調査」で「有給休暇の取得率」は48.7%、紐解くに平成7年には55.2%。本紙が届くころは国会の陣容も定まっているでしょう。「働き方改革」の議論が一層深まることを強く願うばかりです。
(風来坊)

東基連会報‗編集後記【平成29年10月号】

9月8日に行われた東京衛生管理者協議会の研修会に際し、事前にアンケートで「衛生管理者の実務や衛生委員会の運営に関して苦慮していること」などをお聞きしたところ、「定例の委員会は安全と合同で行っており、衛生に関することはとても少ないです」「現場社員に対する衛生問題指導方法に苦慮しています」「衛生管理者の意見より課長、所長の考えが優先されることもあり、なかなか衛生環境の整備が進まない」といった意見が寄せられました。
最近はメンタルヘルス対策に重点が置かれていますが、一口でメンタルヘルス対策といっても、パワハラ、長時間労働、ストレスチェックの実施とその結果に基づく職場環境の改善など、裾野が広く、その担当も安全衛生部署に止まらず人事総務の協力無くして実行は不可能でしょう。
本年6月6日、労働政策審議会は「働き方改革実行計画を踏まえた今後の産業医・産業保健機能の強化について」を建議、法制化に向けた動きが加速しており、各事業場の担当部署やそのスタッフが担うべき役割は一層重きを増してきます。政策が意図する成果を得るには、関係部署、本社と出先機関などのベクトルを合わせ、一丸となった取組が必要で、これを実現するには経営トップの強い意志が何よりも不可欠といえるでしょう。折しも全国労働衛生週間、悩み多き真面目な担当スタッフの声に耳を傾けては如何でしょうか。
(風見鶏)

東基連会報‗編集後記【平成29年9月号】

個別労働紛争の解決制度に関する施行状況が発表され相談、助言・指導、あっせんのいずれにおいても、いじめ・嫌がらせに関するものが4年連続トップとなり、特に、助言・指導においては43.8%増加したとのこと。また、連合「なんでも労働相談ダイヤル」2017年6月分の集計(相談件数1,845件、7月21日発表)でも、「セクハラ・パワハラ・嫌がらせ」が20%と最も多かったとのこと。
一方、6月30日に厚生労働省が発表した「平成28年度 過労死等の労災補償状況」の精神障害の出来事別支給件数を見ると、支給決定された498件のうち、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が74件(14.9%)と「出来事の類型」のうちで最も多く、看過できない被害が生じています。
こうした事情を背景として、昨年12月26日に長時間労働削減推進本部が決定した「『過労死等ゼロ』緊急対策」においても、複数の精神障害の労災認定があった場合には企業本社に対してパワハラ対策も含め個別指導を行うことや、メンタルヘルス対策に係る企業や事業場への個別指導等の際に「パワハラ対策導入マニュアル」等を活用し、パワハラ対策の必要性、予防・解決のために必要な取組等も含め指導を行うことなど、取組の強化を図っています。貴社のハラスメント対策、十分機能していますか?
(風見鶏)

東基連会報‗編集後記【平成29年8月号】

7月7日の新聞各紙では、広告大手電通の労働基準法違反事件で、東京地方検察庁が法人を略式起訴し、過労自殺した新入社員の上司については不起訴(起訴猶予)としたことを一斉に報じました。これで一件落着かと思いきや、13日の各紙では、多くが1面トップで東京簡易裁判所が略式不相当の判断をしたと報じ、事件は公判での審理に移ることとなりました。予想外の展開に、将来ある新入社員を死に至らしめた長時間労働等に対する社会の厳しい評価を改めて感じます。
本誌でも「平成28年度における過労死等の労災補償状況(東京労働局分)について」を掲載したところですが、脳・心臓疾患、精神障害事案ともに、この3年間増加を続けており、先の電通事件で問われた長時間労働に対する社会全体の取組が、労災補償状況に反映してくるのは何時のことなのか、安閑とはしていられない気分にさせられます。
働き方改革実行計画において示された時間外労働の上限規制の法制化が急テンポで進められている中、各企業においても長時間労働の抑制・過重労働による健康障害防止への取組は、もう猶予無しの状況に来ているように思われますが、如何でしょうか。
(向日葵)

東基連会報‗編集後記【平成29年7月号】

個人タクシーを営む高山邦男さんが出版した歌集「インソムニア」が日本歌人クラブ新人賞と、ながらみ書房出版賞を受賞したとの新聞報道(平成29年5月15日、朝日新聞朝刊)があり、詠まれた歌が紹介されていました。
縁ありて品川駅まで客とゆく
第一京浜夜景となりて
わが仕事この酔ひし人を安全に
送り届けて忘れられること
何時間続けるのだらう歩行者を
誘導してゐる娘明るし
乗車した客や車窓越しにふと眼にとまった働く人の様を謳った歌には、被写体となった人への限りない優しい思いやりとどこまでも控えめな詠み人を感じます。平成3年4月から2年余りをかけて建設された福岡ドームの職長会が工事関係者の手記や歌などを取りまとめた文集「童夢」には
中一の我娘のセーラー服姿
二ヶ月遅れて見る我れ悲し
洗わずにそのまま吊るす黒シャツの
汗の塩地図幽かなりけり
という歌が載っています。いずれにも働く人の優しいまなざしを感じるのですが、いかがでしょう。
(金糸雀)

東基連会報‗編集後記【平成29年6月号】

大手広告代理店が労使協定で定めた上限を超える時間外労働をさせていたとする労働基準法違反被疑事件は、自殺した新入社員の上司が昨年末に東京地検に送致されたのに続き、4月25日に本社支社で4名の管理者と法人が検察庁に送致され、労働局での捜査は終結と報道されました。本社、中部支社、関西支社、京都支社に対して強制捜査が行われ、その行方が注目されていたところでしたが、時間外労働を命じた認識を取ることの困難性に阻まれ、捜査の範囲を絞った結果のようです。検察関係者が「かとくの捜査能力はまだ未熟なのに、過大な期待を背負わされた。3歳児が象に立ち向かうような捜査だった」との記事(4月26日、朝日新聞)が強く印象に残っていますが、こうした司法処分とは別に、是正勧告などによる指導によって多額の未払い残業代が支払われたとの記事も目につくようになりました。関西電力のホームページには是正勧告などを受けて行った調査の詳細が掲載され、その末尾には「今回の調査結果を真摯に受け止め、今後も引き続き、「働き方」改革と健康経営に不退転の決意で取り組み、「人を大切にする経営」を実践し、従業員が健康で、活き活きと活躍できる職場環境を実現してまいります。」とのコメントを載せています。司法処分か行政指導か、評価は様々でしょうが、社会の目の厳しさが伝わってくるように思います。
(二刀流)

東基連会報‗編集後記【平成29年5月号】

4月は本社で新人研修が行われるためか、通勤時間帯の電車が混雑を極め、慣れない生活に体調管理がままならず車内で具合が悪くなる方も増えるような気がします。薹が立ったサラリーマンにとっては時計を見ては電車の遅れにため息をつき、「ヒヨコ共がしようがないな」などと自分にもそうした時代があったことを棚に挙げて呪う始末。
ある会社では、新人が配属される部署の社員に次の質問に回答させているとのこと。①新人の時に先輩からされて嫌だったことを3つ以上書いてください。例えば、同じことを何度も聞いて嫌な顔をされたなど。②「新人の時に先輩にされて嬉しかったこと。例えば、出社して挨拶したとき「おはよう」とにっこりしてくれた。「字がきれいだね」と褒められたなど。③自分が新人に何をしてあげられるか3つ以上書いてください。④自分が新人に何をしないであげられるか3つ以上書いてください。ほんのちょっとしたことでも構いません。仕事上のことでも、仕事以外のことでも構いません。必ず3つは書いてください。
何気ない取組ではあるものの、新しい環境で戸惑うことばかりだった新人時代を思い起こし、迎え入れる新人にどのように接するのか、気づきの効果は期待できるように思うのですが、いかがでしょう。
(老婆心)

東基連会報‗編集後記【平成29年4月号】

「働き方改革」の議論が活発になってきており、とりわけ注目されているのが時間外労働の上限規制。繁忙期など特定の期間に業務が集中する場合の「月100時間」を巡って労使の駆け引きが続いている(今号が届く頃には決着を見ていると思いますが…)。こうした中、宅配便最大手のヤマト運輸は、今春闘で労働組合から要求のあった「荷物の取扱量の抑制」に関して、現行六つに区分されている「配達指定時間」について見直しを図り、ドライバーの負担軽減につなげる意向を示した。百貨店業界では、 株式会社三越伊勢丹ホールディングス傘下の店舗が元旦に加え2日も休業とし、2月についても各週で休業日とする店舗を設けるとのこと。利用者から見れば、いずれもこれまでの利便性は下がる。3月号でご紹介した「時間外規制に関する検討会」論点整理でも「過当競争の中で、顧客の要望に対し、際限なくサービスを提供してきた結果、 “翌日配送”や“24時間対応”が消費者にとって当たり前のものになってしまい、長時間労働を招いている実態もある。過度のサービス要求を控えることが、長時間労働の是正につながり、働く人の健康と幸せにつながることを喚起し、国民全体の意識改革を促すことも重要である。」としている。規制もさることながら、利便性の追求に棹さす意識改革こそ、家庭人の半面を持つ私たちに必要なのではないだろうか。
(一徹者)

東基連会報‗編集後記【平成29年3月号】

アイドルグループ「市立恵比寿中学」のメンバー松野莉奈さん、18歳での訃報。芸能界にはとんと疎い輩なので、人気の程も承知していないものの、こうした記事が新聞の一角を占めるところを見れば日々のスケジュールも相当なものと推測するところ。体調不良で休んでいたところ、早朝に様態が急変して死に至ったなどと聞くと、よもや過労死では、などと思うのはまんざら仕事柄だけとも思えないのですが、深読みのし過ぎでしょうか。
年度も終わりに近づき、保育所への入所の可否を知らせる通知が届けられる時期。昨年は「保育所落ちた日本死ね!!!」が国会で取り上げられ、待機児童ゼロへの大きな推進力となったのも記憶に新しいところ。今年もSNSに保育所に入所できなかった人たちの切実な書き込みがあふれているとの報道。方や米国ではトランプ新大統領のツイッターに世界中が注目し、米国のみならず各国の政治経済を揺り動かす毎日。ほんの僅かなつぶやきがある日突然炎上し、社運を左右するとなれども、これといった施しようもなく、日々のコミュニケーションを頼りに火消しに走る毎日。さて御社では如何に。
(昔気質)

東基連会報‗編集後記【平成29年2月号】

旧聞に属する話になりますが、昨年末の大手広告代理店に続き、本年1月には神奈川労働局が大手電機メーカーを過重労働により精神障害を発症したことを端緒として書類送検しました。いずれも労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)で定めた時間外労働の上限を超えて労働させたというものですが、平成26年に被疑条文である労働基準法第32条で送検したのは39件(労働基準監督年報)、一方、平成26年度に精神障害で業務上と認められた事案は497件あり、うち時間外労働時間数(1か月平均)が100時間以上の事案は174件、160時間以上というのが67件、精神障害事案のうち自殺事案は99件で、同様に100時間以上の事案は50件、160時間以上が26件もあり、おそらくこれらの事案は36協定を超えて労働していたことが疑われます。36協定を超えて労働させただけであれば形式犯ですむかもしれませんが、労働時間が精神障害や脳・心臓疾患発症に強い因果関係を持つとされ、業務上外の主要な判断要素であることから、36協定を超えて労働させたことによって自殺や精神障害という被害が現実のものとなれば、長時間労働を原因とする明らかな労働災害。マスコミが関心を持つ大手ばかりではなくとも、こうした労働災害を発生させた事業場に司法処分がなされるケースが増えてくるように思われますが、行政当局や如何に…
(風見鶏)