東基連会報‗編集後記【平成31年1月号】

お屠蘇の抜けきらぬ頭で今年はどんな年になるかとツラツラ考える。昨年成立した「働き方改革関連法」が4月1日から順次施行になる。関連法の遵守に向けた取組はどれも悩ましいが、規模を問わず4月1日から施行される有給休暇の付与は、取得促進に向けた取組がなされていなかっただけに難問。罰則付き時間外労働の上限規制も、中小企業には1年の猶予があるとはいえ、どの様にして規制の範囲に落とし込むかは自社の力だけでは及ばず。5年の猶予となった特例業種も、自動車運転の業務では現行通達での許容範囲が大幅に狭められ、医師についても「医師の働き方改革に関する検討会」で議論の最中で見通しがきかない。職場のパワーハラスメント防止対策も喫緊の課題であり、検討会の報告書を受け、審議会に議論の場を移す。関連法には盛り込まれていないものの、働き方改革の施策に上げられた「治療と職業生活の両立」は有為な人材確保に必須。「兼業・副業」における労働時間管理、「勤務間インターバル制度」の普及・促進。そして、関連法からは削除されてものの、検討が続けられている「裁量労働制」の適用拡大。その先には、改正民法で短期消滅時効廃止の施行は2020年に予定され、これに合わせた賃金や有給休暇請求権事項見直しの行方。考えるうちに酔いが覚める。優先順位を付けての取組と腹をくくり、儘よと正月休みを満喫。
(寝正月)

東基連会報‗編集後記【平成30年12月号】

芸能人が俳句、生け花、料理、水彩画などに挑戦し、作者が意図するところを表現するにはどの様な手を加えたら出来映えの良い作品になるか、それぞれの作品にその道の大家が専門家の立場からコメントを加え、作品(作者?)を評価するというテレビ番組が好評のようで、家内につられて視る機会が多くなった。特に「俳句」は人気があるようで、的確な修正によって作品がこうも変わるのかと感心する。一方で、作品に仕上げるまでの推敲の過程は簡略であり、視聴者にその作品を鑑賞させる間はなく、「才能あり」「凡人」「才能無し」の評価も作者の人格を一面的に評価しているようで、違和感も少なからずある。出演者はタレントであり、所詮テレビのバラエティといえばそれまでかもしれないが、「俳句」を詠むには時の流れに身を委ね、己の感性が捉えた様々な事象を昇華していく作業であり、鑑賞する側も、同様の過程を追いながらその境地を汲むものかと思う。限られた番組の時間に納めるために削り落とされた部分は、私達の日常の生活からも同じように削られ、仕事と私生活を、いつの間にか同じテンポで過ごすようになってはいないだろうか。私の母は、晩年、短歌を詠むことを唯一の楽しみにしていた。その一首は時を超えて在りし日に誘う。
「単身赴任せしと告げし子の任地 酒田というを地図にて捜す」
(浜千鳥)

東基連会報‗編集後記【平成30年11月号】

平成29年「国民健康・栄養調査」の結果が9月11日に厚生労働省から発表された。調査によると、40~49歳の年齢層では、「1日の平均睡眠時間」が「6時間未満」と回答した男性は48.5%(総数36.1%)、女性は52.4%(同42.1%)、「睡眠で休養が十分にとれていない者の割合」は男女計30.9%(同20.2%)となっており、年齢階層別で最悪。加えて「朝食の欠食率」は、さすがに20歳代には及ばないものの、これに次いで男性25.8%(総数15.0%)、女性15.3%(同10.2%)と、こちらも芳しくない。「健康日本21」を運営する公益財団法人健康・体力づくり事業財団のサイトには、「睡眠不足は、疲労感をもたらし、情緒を不安定にし、適切な判断力を鈍らせるなど、生活の質に大きく影響する。また、こころの病気の一症状としてあらわれることが多いことにも注意が必要である。近年では睡眠障害は高血圧や糖尿病の悪化要因として注目されているとともに、事故の背景に睡眠不足があることが多いことなどから社会的問題としても認識されてきている。」とある。調査の対象が労働者だけに限られたものではないとはいえ、一家を支え、我が国を支える働き盛りの40歳代のこの状況を看過するわけにはいかないのではないか。良質な睡眠は、健康を守るためのはじめの一歩であり、効率的で安全に仕事を進める上でも欠かせないことを改めて認識したい。
(時告鳥)

東基連会報‗編集後記【平成30年10月号】

働き方改革関連法のうち、高度プロフェッショナル制度を除く改正労基法関係の省令、指針が9月7日付けで示されました。(株)帝国データバンクが行った「働き方改革に対する企業の意識調査」(2018.9.14付け発表)によると、働き方改革に「取り組んでいる」が37.5%、「現在は取り組んでいないが、今後取り組む予定」が25.6%となっており、省令や指針が示され、取組に必要な情報がそろったところで、来年4月1日の施行に向け、「予定」としていた企業においても取組に弾みがつくものと想定されます。同調査によれば、取組の具体的内容については「長時間労働の是正」79.8%、「休日取得の推進」61.8%となっており、特別条項では時間外労働と休日労働が混在し、有給休暇の取得義務化も基準日が統一されていない場合には管理が極めて煩雑になることを考えると、東京労働局から「東京働き方改革推進支援センター」事業を受託・運営している当連合会としては、各企業の行動が概ね理にかなった方向に動いていることに安堵しています。これからは、働き方改革に「取り組む予定はない」とする15.1%の企業の方々に、如何に取組の必要性を理解いただくか、施行までの時間は限られており、知恵を絞り、足を運んでの活動になりそうです。
(間投詞)

東基連会報‗編集後記【平成30年9月号】

本号掲載の「平成29年度における過労死等の労災補償状況(東京労働局分)について」によれば、精神障害事案のうち業務上として支給決定されたのは108件で前年比19件の増。うち自殺事案は22件で12件の増となっている。厚生労働省が発表した同補償状況によれば、出来事別では「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が支給決定事案の17.4%(自殺では12.2%)で最多。同様本号掲載の「個別労働紛争の解決制度に関する施行状況」でも、いじめ・嫌がらせに関する相談が5年連続トップとあり、職場への蔓延が危惧される。厚生労働省でも本年3月、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書を取りまとめ、労働政策審議会での議論・検討を経て所要の措置を講ずるとされており、早期の対応が望まれる。福井県東尋坊でパトロールを続ける元警察署副署長茂幸雄氏の記事(朝日新聞30.7.22朝刊)に「最近は、職場のパワハラで追い詰められた人が多いね。本人は『ごめんなさい』というんだ。でも、本人は悪くない。悪いのは職場の上司や、周りの人たちだ。」「職場から思いやり、愛が消えたね」とある。現場の声が耳に残る。
(百日紅)

東基連会報‗編集後記【平成30年8月号】

6月1日、最高裁は「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」に対する判決で、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について判断を示しました。先日参加した水町勇一郎東京大学教授のセミナーで、マスコミでは触れられていない重要な留意点を教えてもらいました。ポイントは2点。1点目は、この判決は、現行の「労働契約法第20条」に係る解釈を示したものであること。同条文は、今国会で成立した働き方改革関連法において削除され、パート・有期労働法第8条に新設される条文。この条文新設に伴って「同一労働同一賃金ガイドライン」が示されることになるが、今訴訟を提起されれば、この判決に沿った判断がなされる可能性が大きく、有期・無期労働者間における手当の相違についての見直しは喫緊の課題であること。2点目は、労基法第115条に基づく賃金債権(退職金は除く)の時効は2年であるけれど、不法行為に基づく損害賠償債権の時効は3年であること。遡及支払の期間の相違にも留意が必要とのこと。
改正民法(平成29年6月2日公布)では、賃金債権に係る1年の短期消滅時効は廃止され、5年の一般債権となる。昨年12月から「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」で議論が開始されました。労基法第115条の対象となる請求権は有給休暇や労災補償なども含み、行方に目が離せません。
(風見鶏)

東基連会報‗編集後記【平成30年7月号】

去る6月1日に厚生労働省が「平成29年人口動態統計」を発表しました。平成29年に生まれた子供の数は前年より3万人余り少ない94万6千人と過去最少、合計特殊出生率は2年連続の低下で1.43、東京ではさらに低い1.21になったとのこと。専門家の言やマスコミの解説によれば、仕事と育児の両立支援が追いつかずとある。「平成29 年度雇用均等基本調査(速報版)」によれば、育児休業取得者の割合は、女性は83.2%、男性は5.14%。昨年当連合会が開催した村木厚子元厚生労働事務次官の講演で「私が職場にいた頃、女性が結婚したら「それはおめでとう」、「子供はいつ生まれるの」、「育休いつまで取る?保育所見つかった?」このくらい知っているのは常識、さらに「お父さん、お母さんどこに住んでるの?」、「近くにいる?手伝ってくれる?」、「旦那さん何してる人?」と必ず聞きます。私の部下に子供ができたとき「子供が熱を出したので遅れます」とか「保育所に迎えに行くので帰ります」など、部下が育休を取ることを本当に覚悟できていたのかというと、どこかで甘かったと思います。つまり、男性が子育てに関わっていくのには職場とものすごく戦っていかなければなりません。厚生労働省にしてこの状況なので、一般の民間企業では非常に厳しい。」と話されたのを思い出す。「働き方改革」、法律に魂を入れるのは、法案を通すより難しい。
(紫陽花)

東基連会報‗編集後記【平成30年5月号】

レスリング女子の伊調馨選手がパワハラ行為を受けたとされる問題は、日本レスリング協会が調査を委託した第三者の弁護士らによる調査の結果、パワハラ行為が認められるとの報告書が公表され、4月6日に開催された臨時理事会において「強化本部長の交代」のほか、報告書で提言された「選手とコーチとの間のルール作り」「セクハラ、パワハラに関する研修会の実施」などが提案、承認され、峠を一つ越えた。出席した理事等からは「私の感性からすると、これがパワーハラスメントかとあらためて認識」「わらわれの時代のパワーハラスメントの概念と今の概念は違う」などの感想と反省が述べられたとのこと。
一方、3月30日に厚生労働省から公表された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書でも、「パワーハラスメントは業務上の適正な指導との境界線が明確ではないため構成要件の明確化が難しく、構成要件を明確にしようとすると制裁の対象となる行為の範囲が限定されてしまう」などの指摘があり、議論、検討の場を労働政策審議会に持ち越した。平成28年度に労災保険で支給決定された精神障害事案は498件。うち、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」事案は74件で最多となっている。各側のパワーハラスメントへの認識の隔たりは大きいが、喫緊の課題であることへの認識は共有したい。

東基連会報‗編集後記【平成30年4月号】

3月1日から大学卒用予定者の選考採用に係る広報活動が解禁となり、各地で会社説明会が開催されたとのこと。春の訪れを前に、10月1日の正式な採用内定に向けて就活は本番を迎えることになる。とはいえ、これは経団連が示す「選考採用に関する指針」でのスケジュール。経団連非加盟の上場企業や外資系の企業などでは大学3年の10月頃から選考活動が始まり、大学3年の11月頃には内定者が出るとのこと。経団連加盟の企業でも、「内々定」という正式ではない採用内定を出しているとも聞く。
楽天が運営する就活情報サイト「楽天 みん就」が募集した「就活川柳」、今年の大賞は「わがES 人工知能に 祈られる」に決まったとのこと。最近は、提出されたエントリーシート(ES)を人工知能(AI)を使って選考する企業が増えているとのこと。不採用の通知の末尾には「今後のご健闘をお祈りします」の一文が添えられており、大賞の作品はこれを詠んだとのこと。一方、「売り手市場」となった今年の各社の売りは「ホワイト企業」。「就活川柳」では「夜に鳴る 電話で残業 想像し」とある。上手の手から水が漏れたか。特別賞に選ばれた「電車賃 無言でくれた 父の愛」を読んで、息苦しい就活の中に人の温もり感じたのは私一人ではないと思うのですが、いかがでしょうか。
(春時雨)

東基連会報‗編集後記【平成30年3月号】

自殺者は減少してきたとはいえ、毎年2万人を超え、自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は平成27年では18.9と先進諸国に比べると異常事態のそしりを免れない。(仏15.1(2013)、米13.4(2014)、独12.6(2014)、加11.3(2012)、英7.5(2013)、伊7.2(2012))本号に掲載した「自殺対策強化月間」、座間市で発生した猟奇的な殺人事件を受けて1項設け、その対策の遂行を宣言しているのは注目すべきことと思う。自殺を防止する対策は要綱に網羅されているが、自殺した以後はどうだろうか。全国自死遺族連絡会のホームページには「一人暮らしの娘がアパートで自死。焼き場に不動産業者が押しかけてきて、5年分の家賃補償(600万円)と改修費(200万円)を請求された。」「息子が夜中に縊死。救急病院へ駆けつけた遺族に、死体検案料13万7000円を即金払いで請求。支払わなければ、遺体の引き取りはできないといわれる。」といった事例が紹介されている。愛する家族を喪い呆然としているところに、こうした非情な仕打ちを受けていることも知っておく必要がある。自殺を巡って、こうした多様な側面があることを承知しているのといないのでは、その前段となるいじめや嫌がらせ、過重労働の防止への取組も自ずと熱の入れ方が違ってくるのではないか。自殺した本人や遺族の周りで何が起きているのか、今一度向き合ってみたい。
(雪割草)

東基連会報‗編集後記【平成30年2月号】

安倍総理が年頭の記者会見で「働き方改革国会」と命名した第196回通常国会が招集されました。「長時間労働の上限規制を導入し、長時間労働の慣行を断ち切る。70年に及ぶ労働基準法の歴史において、正に歴史的な大改革に挑戦する」と、その意気込みが語られ、「ワーク・ライフ・バランスの確保」にも言及しました。今国会に提出される予定の「働き方改革関連法案」の中には、平成27年4月に国会へ提出された「労働基準法等の一部を改正する法律案」も含まれ、ワーク・ライフのライフの充実を図ることを目的として「10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならない」こととなります。さて、強制的に取らされた?有給休暇。家にゴロゴロしていれば邪魔にされる世の亭主族、どのように過ごすのでしょうか。「働き方改革」と表裏一体の関係にある「休み方改革」?について、働くもの一人ひとりが見直ししなければならなくなります。働き方改革で問われるのは企業だけではなく、働く側が会社人間から脱皮し、一人の人間として人生を実りあるものにするために、家族とともに過ごすこと、地域社会に貢献すること、趣味を充実させることなど日々の過ごし方をどう変えるのか、という視点がなければ真の改革にはならない、といっては言い過ぎでしょうか。
(老婆心)